ブラックボックス/篠田節子 ★★☆

食の安全、外国人実習生などの諸問題を扱った話だった。面白かったけど演出過剰かな。真に受けて危ないとか言い出す人が出てきそう。加工工場と野菜工場での「働いている人も自分が何をしているのか分からない」とか、異常に対して鈍感になるのが終わりの方で結びついてくるのは面白いと思った。でも全体として雑多な印象とちぐはぐさがぬぐえない。
外国人労働者含む労働者の問題、食の安全、旧来の農業の問題など色々とからめすぎているのがすっきりしない。クリスティーナのエピソードも複合的に絡んでくる話で、以前の職場環境を受けての現在の職場やしたたかな生き方、帰国してからのブローカー側に回るところまで繋がるとは理解できても、催奇性の話まで挟んでくるあたりに厭らしさを感じてしまう。旧来の農業への批判から効率的な農業法人野菜工場とステップアップしていく間に、効率化とリスクマージンを失くすことまでが同質化されているのはおかしいと思った。適切なリスク管理をすることまで含めての効率化だと思うけど、ところどころこういった飛躍があるんじゃないかな。有機農法は上手くいかないと否定的な切り口だったように思えるけど、最後はそっちに行ってしまうのも違和感。野菜工場で作った野菜は味気ないって本当なのかな? 作中でも出てきたもやしとかスプラウト類に対する否定のようにも取れるんだけど。結局自然であるのが一番みたいなのもどうかなぁ。
片岡と今森社長のキャラクタが定まっていないように感じた。もしくは曖昧になるように意図しているのかもしれないが。弁護士?はどうして出てきたのか分からないキャラだったな。かと思えば最初のチーフのおばちゃん、レストランの社長だか幹部もように妙に機械的に役割を割り振られたキャラがいるのも違和感がある。
食の安全に対して意識の低い立ち位置から始まって、それを批判され、後に当事者になって安全性を求める側に移っていくのが、読者に対しても楽観的な自身を批判されるように感じられ、啓蒙的に働かないかと考えてしまう。自己で判断をしない工場で働く大勢や楽観的に流されるだけに人物たちの多いことから、安易に流されることへの批判でもあると思うのだけど。ごちゃごちゃした話だったので感想も焦点の定まらないごちゃごちゃしたものになってしまった。
まあこれ読んでカット野菜は危ないとか食べられないとか言い出す人がいたら鼻で笑うだろうな。